大学時代に印象に残っていることは何ですか?
2008/12/24
大学時代の記憶がほとんどない。
4年間だ。18歳から22歳までの4年間、俺は大学に通っていた。そのはずなんだ。なのに24歳となった今、思い出せることがほとんどない。そして中学の時にイハラさんの水色のブラが見えたことは今でもはっきりと思い出せる。俺の4年に渡るキャンパスライフは1枚のブラジャーに負けている。
工学部の建築学科だった。それは断言できる。
ひとつだけ覚えていることがある。たしか大学三年の七月だ。俺はテストのために徹夜で勉強していた。
構造力学という分野だった。鉄筋に一定の力を加えたとき、どれくらいひん曲がるのか。そんなことを計算で求めていく。はっきり言って興味はなかった。俺の建築への心は、ひん曲がるどころか折れていた。それでも単位は必要だった。眠い目をこすって勉強した。
この分野では、鉄筋の曲がり具合を、”たわみ”と呼んでいた。問題文の中にも、何度も何度もその言葉が出てきた。それは聞き慣れた言葉ではなかった。専門用語というほどではないだろうが。
深夜五時だった。あたりは静まり返っていた。俺は数時間後に控えるテストに怯えながら、ただただ鉛筆を動かしていた。次から次へと問題を解いていき、解法パターンを頭に叩き込んだ。そこでふと問題文に違和感をおぼえた。眠たい目をこすってまじまじと見つめた。
誤植があった。
「わたみ」と書いてあった。
たわみ、たわみ、と繰り返す中に、ひとつだけ居酒屋が紛れ込んでいた。
深夜五時のぼんやりした頭に、この誤植は革命的に面白かった。俺は笑った。誰もいない部屋で笑った。死んでいた心は瑞々しさを取り戻した。モノクロームの世界に鮮やかな色彩がよみがえった。わたみ、おお、わたみよ! 酒のひとつも出さずに、ここまで気分を昂揚させてくれるだなんて!
俺は救われた気分になった。緊張していた心がほぐれた。先ほどまでの切迫感が嘘のようだった。俺は満たされた気持ちですやすやと眠った。そして目覚めると夕方になっていた。テストは終わっていた。世界がひん曲がって見えた。
これが僕の、大学生活でいちばん心に残っていることです。
ぜひ御社で働かせてください。

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