センター分けになれば世界は変わり俺は圧倒的にモテる
2009/05/21
中学一年の頃だ。俺はとにかくセンター分けに憧れていた。センター分けにすることがモテるための唯一の条件だと思っていた。いかに前髪をセンターで分けるか、寸分の狂いもなくセンターで分けるか、それが男性としての魅力を決定づけると信じていた。
そうだ。俺は激烈に勘違いしていた。
なぜセンター分けだったのか。しっかり覚えている。トランクスだ。俺はトランクスに憧れていた。日本マンガ史上に燦然とかがやく名作「ドラゴンボール」において、最もハンサムなキャラクターである。

▲トランクス。かっこいい上に強い。
当時のトランクス人気はすさまじく、男子がトランクスを好きになるのはもちろんのこと、ドラゴンボールをよく知らない女子ですらキャアキャア言っていた。中学生の俺はピンときた。これを見逃す手はないと思った。トランクスになれば圧倒的にモテると思った。そして俺にとって、<トランクス=センター分け>だった。
俺はトランクスの髪型を丹念に研究した。メンズノンノやSmartに向けるべき視線をジャンプコミックスに向けていた。そしてトランクスのセンター分けは通常のセンター分けと少し違うことに気づいた。図解しておこう。

そう、トランクスのセンター分けは、まず上にあがって、それから下に垂れているのである。
俺は鏡のまえで試行錯誤した。普通のセンター分けになっても意味はなかった。トランクスのセンター分けにこそ価値があった。だがとてつもなく難易度が高かった。前髪をいじってもいじっても、なかなかトランクスと同じ髪型にすることはできなかった。だれかがひとこと言ってくれればよかった。「それマンガだよ」と。
しかし誰も言ってくれなかった。俺は毎朝トランクスの前髪になるべく格闘していた。起床から登校までの短い時間が戦争だった。四苦八苦して改良に改良をかさねた。ドライヤーを試しワックスを試しジェルを試した。失敗の日々がつづいた。
「違う、こんなのトランクスじゃない!!!」
そう思いながら妥協して登校する毎日がつづいた。
だが少しずつコツがつかめてくる。けっして再現不可能な髪型ではないことが分かってくる。徐々に納得のいくセンター分けが作れるようになってくる。センター分けの完成度は日に日に上がっていった。そしてついに、シャワーで髪を濡らしてから、ドライヤーで形を作り、ヘアスプレーでガチガチに固める方法が最良だと結論づけた。
俺はついに、トランクスのセンター分けにたどりついた。
そしてモテなかった。信じられないくらいモテなかった。悪い夢かと思った。なにか巨大な悪が裏で糸を引いているのかと思った。ここまで高いクオリティでトランクスを再現している男子がいるのに、なぜ女子どもは見向きもしないんだろう、なぜサッカー部の林君ばかりがモテているんだろう。女子という生き物は全員もれなく頭が沸いているんだろうか?
そんなことはなかった。ただ純粋にかっこ悪いだけだった。
俺の中学時代はそんな風に過ぎていった。毎朝律儀にトランクスになっては、黄ばんだブリーフに向けられるような視線を浴びていた。中学時代の俺にとって女子は不可思議であり神秘であり謎であった。しかし高校生にもなると、俺は気づいた。センター分けは別にモテない。そこにエネルギーを注いでも何も見返りはない。むしろ、どうも、センター分けってダサい。そしてトランクスはマンガだ。
中学時代の俺を支えた<センター分けの男はモテる>という理論はもろくも崩れ去った。俺は新しい価値基準を必要としていた。モテるための理論をゼロから構築し直す必要があった。思考をめぐらせ高校生の俺はひとつの結論にたどりついた。<歌がうまい男はモテる>と。
そうだ。俺は激烈に勘違いしていた。

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