目次

記事表示順:

がんばれ山崎

2007/08/28

近所のコンビニにて。

おにぎりパックを手に取ってレジに向かい、レジでさらに、ホットケースに入っている唐揚げ棒を注文する。今日の昼飯だ。レジの男はひょろっとした黒髪の男で、ネームプレートには山崎と書いてある。行きつけのコンビニなので、顔はすでに知っている。おそらく山崎も、私が常連だということくらいは認識しているだろう。もっとも、まともな会話は一度も交わしたことがない。「温めますか?」という質問だけなら、誰よりも多く聞かれているけれど。

山崎はバーコードリーダーを手に取り、私の差し出したおにぎりパックに押し付ける。だが、うまくいかない。バーコードリーダーはズルッとパックの上を滑る。二度、三度と山崎は押し付けるが、そのたびにズルッと滑って読み取れない。なんだ、そんなにヌルヌルだったか? 私はヌルヌルのおにぎりパックをレジに運んだか?

ふってわいた今日の昼食ヌルヌル疑惑に、すこし心配になるが、何度目かの挑戦で、バーコードはうまく認識された。山崎はそれからレジに唐揚げ棒を入力する。合計の値段が表示される。480円。私は500円玉を差し出す。山崎は、「200円のお返しです」と言って、100円玉を2枚渡してくる。

こんなに思いっきり計算を間違えた大人を久しぶりに見た。

私は「いや、おつり、20円ですよ」と伝えて、200円を返す。山崎は、「あ」と短く声を出した。そして、「すみませんでした」と言って、10円玉を8枚渡してきた。

山崎がおかしい。

ふってわいた今日の山崎アホアホ疑惑に、すこし心配になるが、もうとことんやってやろうと思い、「いや、20円です!」と伝える。山崎は再び短く「あ」と声を出し、それから私に20円を渡してくる。ようやく無事におつりをもらえたので、レジの前で山崎が商品を袋に詰めるのを待つ。しかし山崎は微動だにしない。レジカウンターには、おにぎりパックが寂しそうに放ったらかしだ。

「あの、商品」と言うと、山崎は「あ」と言って、あわてておにぎりパックを袋に詰めた。この調子だと唐揚げ棒の注文は忘却の彼方へと消えていそうだった。私はこの先起こりうる展開が容易に想像できたが、一応、黙っていた。山崎は予想通り、おにぎりパックだけを袋に詰めて、「すいません」と渡してきた。私はもう反射的に叫んでいた。

「唐揚げ、ボウッ!」

興奮のあまり、松岡この夏の新作ギャグ披露、って感じになっている。山崎は今日何度目も分からない、「あ」を再びつぶやいた後、唐揚げ棒を袋に詰めた。どうした山崎。なにがあったんだ。完全に心ここにあらずだった。ゴリラに接客されてる気分だった。

何か、悩みでもあるのかもしれない。それともすごく悲しいことがあって、落ち込んでいたのだろうか。これは、今度あのコンビニに行ったら、話しかけてみるべきかもしれない。

「温めますか? あなたの心を」と。

+1 4
Loading ... Loading ...

恐怖は再びやってくる

2007/10/18

ひとりの夜が怖い。

最近、そんなことばかり思っている。さみしがりやのオフィスレディみたいな弱音を吐いている。誰でもいいから抱きしめて、なんつう状態だ。このままじゃ、好きでもない男の胸で孤独を癒すだけのセックスに溺れそうである。

というのも、こないだ行ったお化け屋敷の恐怖を、いまだに引きずってるのだ。夜の11時くらい、ちょうど、そろそろ風呂入って寝よっかなって時に、いつもふと思い出してしまう。あのお化け屋敷の、想像を絶するおそろしさ。人間の身体を使って作られた人形や、年老いた老婆のヒステリックな叫び声。そんなものが断片的に蘇ってくる。

そしたらもうダメだ。「俺の部屋に幽霊がいる、絶対いる」って、そんな気分になってくる。そして、うしろを振り返るのが怖くなってくる。私の背後には幽霊がいるんじゃないかって、何匹も何匹もいるんじゃないかって、私を呪い殺そうと、ずらっと並んでるんじゃないかって、今の俺は行列のできる松岡になってるんじゃないかって、そんなことを考えてしまうのだ。

で、耐え切れなくなって、友達に電話するという、最高に情けない手段に出る。とにかく、誰の声でもいいから聞きたいのだ。

しかし、こんなときに限って、なかなか出ない。

そんで、今は恐怖に敏感になってるから、呼び出し音のプルルルル…って音さえ、やたら怖く感じる。「これ、呼び出してるの友達だよな」って、「霊界につながったりしないよな」って、五歳児にだって全力で否定されそうな発想がナチュラルに出てくる。霊界につながってもウィルコムは通話無料かな、なんて的外れな心配したりして。

そして散々待たされたあげく、つながったのは霊界じゃなくて留守番電話。突然聞こえた機械的な女の音声に、またしてもビクッ!である。携帯持つ手もがくがく震えて、予期せぬセルフバイブ機能だ。

今話せないとぜんぜん意味ねえよって思いつつ、友達に、焦りと怒りと怯えの入り交じったメッセージを残す。

「ごめん、あの、こわっ、こわくてっ、電話っ、電話を、したのっ!」

混乱しすぎ、だろうか。

松岡哲人23歳、ここでまさかのガールズ口調。

幽霊と、自分の中の乙女が怖い。

+1 4
Loading ... Loading ...

美は男を狂わせる

2008/01/10

バイト先にかわいい子がいない。

いや、みなさんからしたら、「知らんがな」って話だろうけど、ほんとこっちにとっちゃ深刻な事態だ。かわいい子がいるかどうかってのは、バイトのモチベーションに深く関わってくる大変な問題なんである。

もしかわいい子がいたら、それがどれだけ退屈な仕事だろうと、まったく関係なくなる。ひたすら地面の土を掘ってから今度はそれを埋め直す、みたいな、退屈を通り越して拷問みたいになってるバイトでも、となりで長谷川京子が一緒にスコップ持ってるって思ったら、平気で頑張れる。週五でやれる、週五で九時五時で穴掘れる。

思えば、昔、喫茶店バイトにひとりめちゃくちゃかわいい子がいたときは良かった。その子とシフト入ってるときはまったくバイトだって意識じゃなかったし、それが労働だってことを忘れてた。このまま一生コーヒーを入れ続けたいって思ってた。バイト先に向かうときから気分は最高、わけもなく自転車を立ち漕ぎしたりしてた。

しかしその子は就職でバイトをやめ、もともと平均年齢が高いバイトだったんで、今の同僚はみんなずいぶん年上だ。かわいい子っていうか、良いお母さんって感じである。みんなすごくいい人だけど、やっぱりかわいい子の存在が作り出す圧倒的なモチベーションにはかなわない。

新しく始めたマンガ喫茶のほうも、かわいい子はいない。

でも、男の同僚が、「昔はけっこう可愛い子いたんだよ」って言ってて、昔の飲み会かなんかの写真見せてもらったら、ほんとかわいくて死ぬほど好みで、「いつまでいたの」って聞いたら「半年前」との返事。なんで私はこのバイトを半年早く始めていなかったのだ、おお、神よ、マジで神よ、どうして私にこんな仕打ちをなさるのですかマジでグーで殴りますよ、ってキリストの像を前にファイティングポーズである。

そういえば喫茶店バイトのほうも、昔はたくさんかわいい子がいたって言われた。なんだ、なんなんだ、「昔はかわいい子いたんだよ」って、そんなもん、そんなもんね、「昔はマンモスいたんだよ」みたいなもんだから、今、今この瞬間にいないなら、半年前も一億年前も私にとったら同じだから、ほんと、泣くぞ、こちとら泣くっていう手段があるんだぞ、リーサルウェポンとしての涙を出すぞほんとにもう!!

落ち着け。

+1 3
Loading ... Loading ...